ジーン・セバーグ
アメリカン・アクトレス

1999/09/03 アップリンク・ファクトリー
ジーン・セバーグの生涯をインタビューで綴ったドキュメンタリー。
映画からの引用が少ないのは残念。by K. Hattori


 先日観た『ジーン・セバーグの日記』と同時に公開される、女優ジーン・セバーグのドキュメンタリー映画。『ジーン・セバーグの日記』は死んだセバーグ本人が生前の人生を振り返るという構成だったが、この『ジーン・セバーグ:アメリカン・アクトレス』は関係者や友人たちのインタビューで構成された、ごく普通の人物ドキュメンタリー。『ジーン・セバーグの日記』は周辺人物のインタビューが一切なく、セバーグ個人の視点から関係者たちを一刀両断してしまうのが面白かったが、こちらはもう少しバランスの取れた構成になっている。対象への2種類のアプローチ方法という意味で、この2本は双方が補完し合う関係だろう。

 『ジーン・セバーグ:アメリカン・アクトレス』は、ジーン・セバーグという女優の生涯を、誕生から死まで時系列に追いかけたドキュメンタリー。『聖女ジャンヌ』のオーディション風景やその裏側にあるセバーグの素顔。撮影中の秘話。監督との確執。『悲しみよさようなら』から『勝手にしやがれ』に至る道筋。埋もれてしまった名作『リリス』のエピソード。カメラテストのフィルムや撮影中のスチル、映画デビュー作の撮影と並行して進められた取材旅行の記録、インタビュー映像など、貴重な映像もたくさん登場する。だがそれだけでは、彼女の「女優」としての顔がわかりにくい。版権の問題などもあるのだろうが、映画の場面を直接引用していないのは残念だ。フィルムやビデオもあまりないのだろうが、『勝手にしやがれ』以降に彼女が出演した他愛のないラブコメ作品などもたくさん取り上げてほしかった。

 インタビューはどれも貴重なものだと思うが、どれも20年以上前の思い出話ばかりで、当時の時代の空気が感じられないのは不満だ。これは当時の記録映像などで、観る側の想像力を補ってほしかった。彼女の活動の最盛期は1960年代。その当時のアメリカ映画にどんなものがあったのか、フランス映画にどんなものがあったのかが知りたい。公民権運動の高まりを、記録映像で見せてほしい。『勝手にしやがれ』でスターになりながら、なぜセバーグはその後出演作に恵まれなかったのかを分析してほしい。すべて無い物ねだりかもしれないが、『勝手にしやがれ』のベルモントがフランス映画界を代表する俳優になったのに比べると、セバーグの後半生は悲惨すぎる。なぜ彼女はそうした人生を送らねばならなかったのか? それは彼女の女優としての資質によるものなのか? あるいは一部の人が主張するようにFBIの陰謀なのか? もしくは時代の悲劇なのか?

 映画の終盤は、セバーグの死を巡る謎を描いている。自殺としては動機が不明であること。血中の異常なアルコール濃度と睡眠薬の関係。下着さえつけずに全裸で死んでいた不自然さ。死後数日たって発見されたのに、死体の乗っていた車が直前に動かされていたこと……。遺書めいた手紙が見つかったことで、セバーグの死は自殺と断言された。だが真相は誰にもわからない。

(原題:JEAN SEBERG / AMERICAN ACTRESS)


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