家族シネマ

1999/09/08 TCC試写室
柳美里の芥川賞小説を韓国人の監督が映画化した話題作。
映画にまつわる話題性ほどは面白くない映画。by K. Hattori


 柳美里(ユウ・ミリ)の芥川賞受賞作「家族シネマ」を、『301・302』の朴哲洙(パク・チョルス)監督が映画化。物語の舞台は日本で、登場人物も全員日本語を喋っているが、これは紛れもない韓国映画だ。出演は作家の梁石日(ヤン・ソギル)、伊佐山ひろ子、原作者の妹でもある柳愛里(ユウ・エリ)、新宿梁山泊の中島忍、Vシネに主演作もある松田いちほ、新宿梁山泊の俳優兼演出家である金森珍(キム・スジン)、東映の『残侠』にも出演している韓国人俳優の朴永祿(パク・ヨンノク)など。プロの俳優としてキャリアを積んでいる人もいれば、これが演技初体験の人もおり、韓国人や在日韓国人がいれば、日本人もいる。こうした雑多さが、この映画の内容に奇妙にマッチしているように思えた。

 (どうでもいいけど、漢字で表記された韓国人名の現地読みは、やはりどう考えても不合理。韓国人の発音に近づけるため、日本語の音訓にない発音をわざわざルビとして漢字に振る必要があるのか? 「朴哲洙」を「パク・チョルス」と読ませたいのなら、最初からカタカナで「パク・チョルス」と書けばよい。香港映画や中国映画の人名表記は、大半がそうなっている。)

 離散した一家が、映画撮影のため20年ぶりに集まり、映画の中で家族団らんを演じるという物語。もともとはAV女優だった次女が正統派女優へと転身するために企画された映画で、映画のコンセプトは「ドラマとドキュメンタリーの中間」だという。脚本はモデルとなった本人たちの略歴やキャラクターを参考にして書かれたもので、それを本人たちが演じるのだから、台詞にリアリティがあるのは当然。撮影現場では、脚本の台詞が時に虚構を乗り越えて現実に迫り、逆に現実が映画にあわせてドラマチックな様相を見せ始める。

 つまらない映画ではないが、特別面白くもないというのが僕のこの映画に対する印象。この映画の面白さは、日韓合作というニュース性と、芥川賞受賞作の映画化という話題性、キャスティングのユニークさにつきてしまうと思う。家族のドラマとしては、それぞれの内情への踏み込みが不足していて迫力不足。映画作りの話としても中途半端。この映画はコメディに分類される作品だと思うが、良質のコメディに不可欠な軽やかさがこの映画にはまったくない。ぬかるみに足を取られてもがいているような所からは、観客の笑いが生まれにくいのではないだろうか。コメディにするのなら、ここに登場する対象をもっと突き放してほしい。彼らの幸福や不幸を、もっと残酷なまなざしで見つめてほしい。

 父親役の梁石日はこの映画が演技初体験だというが、じつに堂々とした貫禄で素晴らしい存在感を見せた。演技のぎこちなさが、カメラの前で緊張して台詞をしゃべったり、映画の撮影にあわせて日常生活まで芝居じみてくる父親像とぴったりマッチしているのだ。この映画の梁石日は素晴らしかったが、だからと言って彼を別の映画に出しても、素人芝居にしか見えないはずだ。

(原題:KAZOKU CINEMA)


ホームページ
ホームページへ