将軍の娘
エリザベス・キャンベル

1999/09/10 UIP試写室
陸軍基地内で起きた女性士官の全裸絞殺死体の謎。
ジョン・トラボルタ主演の軍隊映画。by K. Hattori


 ジョージア州マッカラムの陸軍基地で、心理作戦部の教官エリザベス・キャンベル大尉の全裸死体が発見された。死体は手足をロープでテントの杭に縛り付けられ、首にはパンティが巻き付けられている。死因は窒息死。被害者は基地の最高責任者であり、次期副大統領として政界入りも噂されているジョー・キャンベル将軍の一人娘だった。CID(犯罪捜査部)のポール・ブレナー曹長が捜査担当になるが、彼に与えられたタイムリミットは36時間しかない。それを過ぎるとFBIが捜査に加わり、スキャンダラスな事件は表沙汰になってしまう。ブレナーはレイプ犯罪の専門家であるサンヒルと共に、エリザベスの交友関係を調査し始めるのだが……。

 ジョン・トラボルタ主演の軍隊もの。「軍隊もの」というのは同じ軍人たちを主人公にした「戦争もの」と異なり、大がかりな戦闘シーンやアクションシーンは登場しない。軍隊という特殊な組織内での人間関係や、組織と個人との葛藤、組織の腐敗などを描くのが主眼になる。軍法会議を描いた『ア・フュー・グッドメン』や、陸軍内務班のリンチ体質を描いた日本映画『真空地帯』は「軍隊もの」で、外国との戦争を描いたアクション主体の映画は「戦争もの」になる。映画の前半を軍隊内での訓練風景、後半を実戦にした『トップガン』『フル・メタル・ジャケット』『G.I. ジェーン』などは、「軍隊もの」と「戦争もの」の折衷型と言えるだろう。もっとも、こうしたジャンル分けは僕が便宜的に作ったものなので、真に受けて「軍隊ものと戦争ものの違いはね……」などと吹聴して回ると恥をかきますよ。

 この映画はミステリーだし、物語の序盤で早々に重要な手がかりが登場したりするので、内容についてはほとんど紹介することができない。この映画のテーマは犯人探しというより、殺された“将軍の娘”と父親の絆や対立にあるのだと思う。ここに描かれた殺人事件は、偶発的な事故や予期せぬ犯罪というより、それよりずっと過去にさかのぼったある事件をきっかけに巡り巡って引き起こされた悲劇なのだ。殺人は確かに忌むべき犯罪だが、本当のきっかけは目の前の殺人事件よりずっと前にある。主人公たちがそれを暴いてゆく課程はスリリングだが、暴かれた真実は誰にとっても愉快なものではない。

 ひとりひとりの人間は弱く愚かな存在だ。その人間たちが高度な社会秩序を維持してゆくためには、厳格なルールが必要になってくる。一般社会でもそれは同じだが、軍隊では特にその傾向が強い。この映画では人間の弱さや愚かしさを厳しく糾弾する一方で、人間が作り上げてきたルールをとりあえずは信頼し尊重しようというメッセージが読みとれる。これがいかにもアメリカだ。

 日本では警察内部での不祥事揉み消しが大問題になっている。警察と自衛隊は、日本国内で銃による武装が許されている特権的組織だということを忘れてはなるまい。ルールを厳格に守り、ルールを破った身内に対しては特に厳正な処分を科してこそ、組織の規律と信頼は守られるのだ。

(原題:The General's Daughter)


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