アナライズ・ミー

1999/09/20 日本ヘラルド映画試写室
ロバート・デ・ニーロが急に涙もろくなったマフィアを演じるコメディ。
『ゴッド・ファーザー』のパロディは面白すぎる。by K. Hattori


 泣く子も黙るニューヨーク・マフィアの顔役ポール・ヴィッティは、原因不明の動悸と息苦しさに苦しんでいた。2週間後にはマフィアのボスが集まる重大な会議が開かれるというのに、イケイケの武闘派だった自分が、近頃どんどん弱気になっているのを感じる。マフィアの世界は食うか食われるかの弱肉強食。面と向かってにらみ合ったときに、一歩でも引いたら命はない。医者から「原因は精神的なもの」と言われたポールは、たまたま部下が名刺を受け取った精神分析医ベン・ソボルのセラピーを受けることにする。だがそれは、数日後に結婚式を迎えるソボルにとって、迷惑千万な話だった……。

 ロバート・デ・ニーロが極悪非道でしかも情緒不安定なマフィアの大ボスを演じ、ビリー・クリスタルが彼に押し掛けられる精神分析医を演じたコメディ映画。監督は『恋はデジャ・ブ』『クローンズ』のハロルド・ライミス。今までに何度も大物マフィアやチンピラを演じてきたデ・ニーロが、自らのパロディを演じてみせる面白さ。上目づかいにソボルをにらみながら「俺にはいつもイエスと答えろ」とすごみ、それでもソボルに逃げられそうになると「どうして俺を見捨てるんだ」と泣きべそをかく。ジェットコースターのように猛スピードで上下する感情の起伏を、演技派のデ・ニーロが臨場感たっぷりに演じているのだから笑ってしまう。

 ただし、物語としてはそれ以上の広がりも深みもないのが残念。確かに面白い映画ではあるのだが、脚本の中にある父と子の関係や、結婚式に至るドタバタなどがあまり生かされていない。デ・ニーロ演じるマフィアのボスばかりが物語の中でクローズアップされ、彼を治療するハメになる精神分析医の心境変化がよく描かれていないような気がするのだ。ソボルは自分の両親との間にわだかまりを抱えている。そうした自分自身の問題を、ヴィッティの治療を通して解決して行くというのが、この物語の本来の筋道だろう。夫がマフィアがらみの騒動に巻き込まれて立腹したソボルの新妻は、どうやって夫を許す気になったんだろうか。ソボルの息子と新妻の関係はどうなるんだろう。そんなところまできちんとフォローしてこそ、家族の絆や異なる世界に住む男同士の友情というテーマが見えてくると思うんだけどなぁ……。

 デ・ニーロの見せ場がふんだんに盛り込まれているのに、相手役ビリー・クリスタルの見せ場は少ない。大勢のマフィアに取り囲まれてソボルが開き直る場面がクライマックスだが、ここはしゃべくり芸になっていて、字幕では可笑しさがあまり伝わってこなかった。アメリカ人は、この場面で爆笑するんだろうか……。

 面白そうなアイデアの芽はたくさんあるのに、それがきちんと育っていない。FBIがからんでくるエピソードも、作り方によってはもっともっと面白くなるのに、表面をサラリと通り抜けてしまうだけだ。作り手はデ・ニーロ演じるマフィアの大ボスが精神分析に通うというアイデアだけで、満足してしまったんでしょうか。

(原題:Analyze This)


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