輪舞

1999/09/29 東宝東和一番町試写室
10人の男女が織りなす10個の恋のドラマを連作で描く。
ジェラール・フィリップは最後に登場。by K. Hattori


 オーストリアの作家アルトゥール・シュニッツラーの戯曲を、マックス・オフュルスが映画化したオムニバス風の恋愛劇。キューブリックの遺作『アイズ ワイド シャット』もシュニッツラー原作だが、映画としては『輪舞』の方が面白いかな……。ま、好みの問題もあるけど。

 この映画は10人の男女が織りなす恋愛模様を、リレー形式で描いたもの。娼婦が兵士に恋をし、兵士は小間使いにちょっかいを出し、小間使いは雇い主の若主人と深い仲になり、若主人は年上の人妻に恋いこがれ、人妻の夫は出張先で若い娘に援助交際を持ちかけ、若い娘は詩人に心惹かれ、詩人は女優に愛を語り、女優は若い伯爵をベッドに引っ張り込み、伯爵は娼婦の家に泊まり込む。こうして男と女の愛と性はぐるぐると円を描き、いつまでも回り続ける。この循環が成り立つには、登場人物全員が複数の相手と関係を持つ必要がある。描き方をひとつ間違えると、単なる性的放縦を描いたふしだらで生臭いものになってしまう可能性もある。しかしこの映画は、いかにも上品そのもの。セックスにまつわるエピソードもたっぷり描かれつつ、セックスの生々しさを避けて巧みに「恋」のエッセンスだけを抽出している。

 狂言回しの男は、神か天使か……。彼の回すメリーゴーランドと彼の歌にあわせて、物語は次々と変遷。この狂言回しがエピソードとエピソードをブリッジして行くことが、映画全体に統一感を生み出している。この映画の中ではひとりの人物が2つの恋をすることでドラマがリレーされていくのだが、こうしたエピソードが時系列につながれているものなのかはわからない。あるエピソードが別のエピソードの伏線になったり、直前のエピソードが次のエピソードに影響を与えている部分がほとんどないのだ。映画は最初と最後に同じ娼婦が登場して終わるのだが、これは同じ人物が再登場すると同時に、時間的にも循環して同じ場所に戻ったのかもしれない。

 エピソードによっては退屈なものもありますが、今観てもまったく色あせていないものも多い。僕は映画の序盤で少し眠くなってしまいましたが、中盤の人妻のエピソードで一気に目が覚めました。もっともこれは話の面白さより、人妻役のダニエル・ダリューの美貌にドキリとしただけかもしれないけどね。今回の上映はジェラール・フィリップ特集の1本ということなのですが、彼が出演するのは最後の2エピソード。飾りのごてごて付いた服と兜といういでたちの、若い伯爵を演じている。かしこまって女優の前に立ちつくす堅物ぶりと、飲んだくれて放蕩三昧の生活をする2話のギャップがユニーク。

 1950年のヴェネチア映画祭で、最優秀脚本賞と美術賞を受賞した作品。もともとは戯曲だそうですが、それを巧みに映画の世界に置き換えています。映画スタジオの中から物語が始まり、最後はまた映画スタジオに戻っていくという構成も面白いし、濡れ場をカットするのにフィルムにはさみを入れるというアイデアにも笑ってしまった。今でも古びていない映画です。

(原題:La Ronde)


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