ドリームメーカー

1999/10/04 東映第1試写室
レンタルレコード店を振り出しに音楽業界の頂点までかけ上る青年。
エピソードも中途半端だし構成もグズグズのダメ映画。by K. Hattori


 人気グループDA PUMPの辺土名一茶とSPEEDの上原多香子が共演した青春メロドラマ。ライジングプロダクション社長の平哲夫が製作総指揮で、製作はライジングプロとTBSと東映。この映画、主演ふたりのファンは劇場に足を運ぶのでしょうが、それ以外の人は観る必要のない作品です。そもそもこの映画は、ストーリーがドラマの体をなしていない。時代背景もまったく不明。映画の中で、何が言いたいのかサッパリわからない。観ていて「なんでそうなるの?」という部分が多すぎる。この主人公に共感できる観客なんているのか?

 音楽好きの青年が小さなレンタルレコード屋でアルバイトをはじめ、その店の看板娘と恋仲になる。寂れていた店は、主人公の音楽に対する情熱と知識に支えられて、少しずつだが常連客が付きはじめる。ところが通りの向かいにチェーン店の大型レンタル店ができて、主人公のいる小さな店は風前のともしび。主人公は起死回生の一大イベントとして、店でディスコイベントを開催するのだが……。とまあ、そんな話だ。

 僕がよくわからなかったのは、主人公と音楽との関わり方に描写の一貫性がないことです。最初に登場したときは、バイクに大量のスピーカーをつけて走り回る音楽ジャンキー。次はアマチュアバンドのドラマー。家に帰ればターンテーブルを前にDJもどき。レンタルレコード屋では、音楽知識をフル活用して本物の音楽の伝道師。最後は音楽プロデューサーになるらしい。この主人公には、明確な目標というものが最後までない。レコード屋で働きはじめた後でも、フラフラとバイクを転がしたりしているし、最後のディスコイベントにも何の意味があったのかわからない。「こんなことをやらせたらカッコいいかも」という思いつきだけで、2時間近い映画を埋め尽くしている感じだ。

 ひとりの青年が人生や恋に悩みながらも、成功への階段を一歩ずつ上っていく映画なのか……。いや、この映画はそうしたサクセス・ストーリーではない。何しろここでは、主人公がサクセスする課程がひとつも描かれていないのだ。彼が味わうのは、数限りない挫折のみ。バンド活動に挫折し、暴走族も中途半端になり、レンタルレコード屋もつぶれてしまう。彼はこうした経験の中で、何を学んだのか? それはわからない。我々が見るのは、レコード屋がつぶれた後で、なぜか一夜にしてサクセスを成し遂げベンツを転がす主人公だ。観客はここで、ひどく混乱するだろう。浦島太郎になった気分だ。

 レンタルレコード屋が全盛期だったのは、僕が中学生か高校生の頃だから、今から17,8年前になるはず。その後は急速にCDが普及して、レコード主体のレンタル店はあっという間に消えてしまった。主人公たちが「本物の音楽」を店に揃えても、それはもう時代遅れなのだ。この映画には、そうした風俗描写がまったく存在しない。「本物の音楽」などという甘っちょろい言葉だけで、音楽業界でのサクセス・ストーリーなど描けまい。


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