アフターグロウ

1999/10/06 シネカノン試写室
タイトルは冷え切った夫婦の中に残る愛の「残照」という意味か?
途中まではコメディタッチだけど最後は泣かせる。by K. Hattori


 子供のいない若い夫婦と、子供に家出された熟年夫婦。表面的には穏やかで平和に見えながら、家庭の中ではすれ違ってばかりいる2組の夫婦が、それと知らずに夫婦交換を演じてしまうというラブ・ストーリー。子供を産むことを望みながら、まったくその気になれない夫にいらだちを隠せない若い妻マリアンを演じているのは、「ツイン・ピークス」『スリーサム』『赤ちゃんのおでかけ』のララ・フリン・ボイル。代表作として未だに「ツイン・ピークス」を持ち出されるのは不本意でしょうが、事実なんだからしょうがない。その夫ジェフリーを演じているジョニー・リー・ミラーは、『トレインスポッティング』でシックボーイを演じていた若い役者。熟年夫婦ラッキーとフィリスを演じているのは、ベテラン俳優のニック・ノルティとジュリー・クリスティ。配管から内装工事まで何でもこなす便利屋と、元女優という役柄です。『ドクトル・ジバゴ』の主演女優に、B級怪奇映画のヒロインを演じさせてるわけね……。

 映画の舞台はモントリオール。カナダは英語とフランス語が公用語で、モントリオールにはフランス系の住民が多いとあって、この映画の中でも会話の端々にフランス語が飛び出してくる。交錯した不倫劇というきわどい題材を描くには、日常生活の匂いを感じるアメリカの都市ではなく、少し日常から離れたフランス語圏のカナダという舞台が必要だったのかもしれない。もっとも僕は最初、舞台がカナダということに気づかず、登場人物たちがフランス語で挨拶をするのを見ても気取っているんだと思ってしまいましたが……。アメリカ人が見れば都市の景観などから、「これはカナダだ」とすぐわかるのかな。日本人には東京と香港の区別がつくけど、普通のアメリカ人に違いがわかるとは思えないもんな。

 ここに登場するのは2組のセックスレス夫婦です。互いに愛し合っているのに、それぞれの事情でセックスのない生活に甘んじている夫婦。子供がほしくてたまらないのに、夫が自分を抱こうとしないことに業を煮やしているマリアンは、たまたま内装工事を頼んだラッキーと関係を持つ。やがてその関係はそれぞれの配偶者であるジェフリーとフェリスに知られることになる。

 ジェフリーとマリアンの若い夫婦が、熟年夫婦ラッキーとフェリスがたどったのと同じ間違いを同じようにたどっていくところがこの物語のミソなのでしょう。夫が側にいない寂しさから別の男と関係を持ち、妊娠してしまう妻。それでもこの映画は、最後にやや強引とも思えるハッピーエンドに持ち込んでしまう。実際にはこんなこと、絶対にあり得ないと思うんだけど、そのあり得ないことを信じさせてしまうのが役者の演技であり、映画の演出であり、音楽の力なのかもしれません。ラストシーンで使われているのは、トム・ウェイツの歌う「サムウェア」。ミュージカル「ウェストサイド物語」の中で歌われるラブソングで、今ではスタンダードになっている曲です。これには参った。ちょっと泣いちゃったよ。

(原題:AFTERGLOW)


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