クッキー・フォーチュン

1999/10/08 松竹試写室
ロバート・アルトマンの名人芸が光る南部が舞台のミステリー。
豪華俳優陣を使った絶妙のアンサンブル。by K. Hattori


 『ザ・プレイヤー』『プレタポルテ』のロバート・アルトマン監督最新作。物語の舞台は、ミシシッピー州北部の小さな町ホーリー・スプリングス。イースターを2日後に控えた聖金曜日の晩に物語が始まり、イースターをはさんだ翌月曜日までわずか4日間の物語だが、そこにはホームドラマがあり、犯罪ミステリーがあり、ラブストーリーもある。『カンザス・シティ』で南部のけだるい雰囲気を見事に描ききったアルトマン監督は、この映画でも南部特有の適度にダルな雰囲気をうまく描き出している。同じように南部が舞台でも『相続人』はまったくダメだったけど、今回の映画はうまい。陰謀渦巻くドラマなのに、雰囲気が徹底してほのぼのしているので、観ているこちらまでほのぼのした気持ちになってくる。

 登場する俳優たちは超豪華。グレン・クローズ、ジュリアン・ムーア、リブ・タイラー、クリス・オドネル、チャールズ・S・ダットン……。他にも大勢の見知った顔ぶれがぞろぞろ登場して、しかも映画の雰囲気をまったく損なうことなく絶妙のハーモニーを作り出している。今時これだけの顔ぶれを揃え、しかもそれをうまく使いこなしていくのは、ウディ・アレンとアルトマンしかいないんじゃないだろうか。考えてみれば、こうしてスターを勢揃いさせるのは、昔のハリウッド映画と同じ手法なのです。今ではそれを、アレンやアルトマンなどハリウッドの外で映画を作っているインディーズの監督が自分のスタイルにしている。なんとも皮肉です。

 イースター前日の土曜日、町の人たちに愛されてきた老婆クッキーが自殺する。発見したのは姪のカミールとコーラ。敬虔なクリスチャンで町の名士を自認するカミールは、叔母の自殺を不名誉なものだと考え、自殺現場を細工して強盗殺人事件に見せかける。駆けつけた警察は、現場で同じ敷地に住んでいる黒人ウィリスの指紋を発見。ウィリスの人柄を知る保安官は彼の潔白を主張するが、とりあえずは彼を重要参考人として留置場に入れざるを得なくなる……。殺人を自殺に見せかけるという話はよく聞くが、自殺の発見者が現場を殺人に仕立てるというアイデアがまず面白い。やがて捕らえられる無実の男。現場の証拠や関係者の証言は、ことごとく容疑者の有罪説を補強して行く。これは典型的な巻き込まれ型のサスペンス映画ですが、こうした物語がまったくサスペンス抜きに語られるのがユニークです。これは犯罪ミステリーの形式を借りたコメディ映画。容疑者ウィリスの無罪を強硬に主張する保安官が、その理由を問われて「彼は俺の釣り仲間だ!」と言うのもおかしい。

 物語は二転三転して、最後はあっと驚く結末を迎える。しかしそれを、あえて劇的なクライマックスとして描かないところがよい。物語は終始淡々と流れ、最後も淡々と終わってしまう。このさりげなさが何とも贅沢。ジュリアン・ムーアがぼんやりした役で出てきたと思ったら、最後にはやっぱりスゴイことをやってくれました。すべての映画ファンにお勧めできる映画です。

(原題:Cookie's Fortune)


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