トーマス・クラウン・アフェアー

1999/10/13 UIP試写室
スティーブ・マックイーン主演の『華麗なる賭け』を再映画化。
主演はピアーズ・ブロスナンとレネ・ルッソ。by K. Hattori


 スティーブ・マックイーン主演の『華麗なる賭け』(68年)を、ピアーズ・ブロスナンとレネ・ルッソ主演でリメイクした映画。原題はオリジナル版とまったく同じ、オリジナル版でヒロインを演じたフェイ・ダナウェイがゲスト出演し、アカデミー賞を受賞したテーマ曲「風のささやき」をスティングに歌わせるなど、徹底的に前作を踏襲しているのに、なんで邦題は『華麗なる賭け』じゃないんだろう……。UIPは『サイコ』で懲りて、「リメイク映画はもう真っ平」と思ったのかな。

 僕はオリジナル版を観てませんが、今回の映画はまずまず楽しめた。特に序盤から中盤にかけてはテンポがいいし、ヨットやグライダーなど「お金持ちの道楽」が迫力十分に描けていて見応えがある。話の中心はスリルに満ちた完全犯罪と大人の恋の駆け引きですが、そのバックボーンにある生活の基盤を、きちんと絵として見せているから観客の共感を得られる。ここで手を抜いてしまうと、主人公たちの行動が荒唐無稽な絵空事になってしまう。たとえ話が『ルパン三世』ばりの荒唐無稽なストーリーだったとしても、映画を観ている間はその嘘を信じさせなければならない。そのためには、ひとつひとつの描写をおろそかにできないのです。

 主人公トーマス・クラウンは実業界で成功した大富豪だが、入念な計画を立てて、美術館から時価1億ドルというモネの絵を盗み出す。その捜査に参加したのが、保険会社の調査員キャサリン・バニング。彼女は保険会社と契約する有名な賞金稼ぎだ。キャサリンは鋭い洞察力と勘で、トーマスこそ絵画窃盗の真犯人だとにらむ。動かぬ証拠をつかむため、彼女はトーマスに急接近。トーマスも彼女の接近に、今まで味わったことのないスリルを感じ始める。最初から敵と味方として知り合ったふたりは、やがて互いに好意を持つようになるのだが……。

 少しの妥協をすることなく、何十年も自分の生き方を貫いてきた男と女が、自分にとって最高のパートナーと巡り会う。だがふたりが結ばれるには、今まで守り通してきた自分たちの生き方を捨てなければならない。はたしてその恋は、それに値するものなのか。その確証を求めて、ふたりは接近と回避を繰り返す。「惚れた弱み」を握られまいと、相手を牽制し合うふたり。だがクールな仮面の下から、いつしか本気が顔をのぞかせる。「恋したふり」が「本当の恋」に化ける瞬間が、もう少しはっきり描かれているとよかったんだけど……。

 オリジナル版ではトーマス・クラウンの犯罪が銀行強盗だったのを、リメイク版では絵画泥棒に変更。美術品泥棒と保険調査員という関係は、『エントラップメント』のショーン・コネリーとキャサリン・ゼタ=ジョーンズにも登場しました。これからは保険会社の調査員が、この手の映画のトレンドになるかもしれません。この映画では華麗な盗みのテクニックより、男女の恋がメインテーマになっている。ピアーズ・ブロスナンがハイテク装備で盗みを働いたら、まるで007だもんね。

(原題:THE THOMAS CROWN AFFAIR)


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