ナイル

1999/10/14 東映第1試写室
エジプトの遺跡と盗掘品密売シンジゲートを巡るミステリー。
原作は吉村作治。映画はつまらない。by K. Hattori


 予告編を観たときから「どうせつまらないだろう」と思ったものの、「でも和泉聖治監督だし」と一片の望みを抱いていた作品。結果は、やっぱりダメでした。原作はタレント活動もしている、早稲田大学教授でエジプト考古学者の吉村作治。本人も考古学者役で映画初出演している。主演は渡瀬恒彦。エジプトで遺跡調査をしていた日本人考古学チームのキャンプが襲われ、リーダーの大学教授が誘拐された。同じ頃、東京にある教授の自宅も何者かに襲われ、小学生の息子・海が誘拐される。教授の友人でもあった新聞記者の見城は、ふたつの事件に何らかの関連があると考えて警察に捜査を依頼。事件の背後では、国際的な盗掘品密売シンジゲートが暗躍しているらしい。やがて教授は死体で発見される。誘拐された海は、無事に救出されるのか? 教授が誘拐される間際に送った謎のメールの意味は?

 実際にエジプトで何十年も発掘作業に携わっている現役の考古学者が原作を書いているのに、エジプト考古学について少しも解説されていないのにガッカリ。ツタンカーメンの名前はみんな知っていても、その発掘作業がどれほど世界にセンセーションを巻き起こしたか、現在行われている発掘作業にどんな作業があるのか、発掘現場でのエピソード、盗掘にまつわる実話など、映画の中に盛り込めば興味を引きそうな話はいくらでもあるんじゃないだろうか。主人公の後任になる若い特派員がエジプトにやってくるエピソードがあるのだから、彼にエジプトの現状をレクチャーするかたちで、観客に考古学のイロハを解説するのは簡単なんです。吉村教授が実際に現場で味わった数々の苦労話を映画に盛り込めば、観客はより一層エジプト考古学に興味を持ったと思う。ツタンカーメン墓の発見に匹敵する歴史的な大発見が物語の背景にあるのに、この映画ではそれが単なる「財宝探し」レベルにおとしめられている。『レイダース/失われた聖櫃〈アーク〉』や『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』では、それらしい考古学情報をちりばめて物語にリアリティを生み出していたというのに……。

 脚本がまったくダメ。誘拐された教授の息子が貨物船で国外に連れ去られたあと、なぜ翌日にはギリシャやエジプトに到着しているんだ? そんなに早い貨物船があるのか? これは「ロシアで飛行機に積み替えた」とか、しかるべき説明がないとチンプンカンプンだ。シンジゲートが息子を誘拐したのは、それをネタにして教授を強迫するためでしょう。なのに教授は、息子の到着を待つことなく殺されてしまう。やってることが無茶苦茶だ。国際的なシンジゲートのくせに、組織の規模がやけに小さいし、やってることがセコいのにも困った。終盤のクライマックスに相当する場面で、僕は何度か笑いそうになってしまったぞ。娯楽映画にも関わらず、ヒロインを殺したり、子どもたちに人殺しをさせてしまうセンスも納得できない。意味のないエピソードが多く、意味不明のカットもある。夏樹陽子は何のために出てきたんだ?


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