黒い家

1999/10/19 松竹試写室
貴志祐介の同名小説を森田芳光が映画化した角川映画。
面白い映画だけど、娯楽作としては華がない。by K. Hattori


 貴志祐介の同名小説を、『失楽園』『39/刑法第三十九条』の森田芳光が映画化。配給は松竹だが、製作には角川書店やアスミック・エースがからんでいる。つまりこれは、『リング』などと同じ角川映画なのだ。貴志祐介のデビュー作『十三番目の人格(ペルソナ)/ISOLA』も、来年1月には東宝系で『リング0』の併映作として公開されることが決まっている。角川書店は立て続けに貴志作品を映画化することで、『リング』シリーズの鈴木光司に続く第2のホラー金脈を掘り当てようとしているのかな。角川商法健在なり!

 保険会社でクレーム処理や不正受給の調査をしている主人公・若槻慎二は、ある日「自殺でも保険金は下りるのか」という問い合わせの電話を受ける。てっきり電話の相手が自殺を考えていると考えた若槻は、自殺を思いとどまるよう説得して電話を切った。翌日電話の主・菰田幸子から自宅に呼び出された若槻は、そこで幸子の子供の首吊り死体を発見する。はたしてこれは偶然なのか? 会社でデータを検索したところ、幸子の夫・重徳は保険金詐欺の常習者だった。死んだ子供は幸子の連れ子で、重徳とは血がつながっていない。重徳は保険金欲しさに、義理の息子を殺したのか……。保険会社では保険金の支払いをストップして警察の捜査結果を待つことになるが、翌日から菰田夫妻が保険会社の窓口に日参し、若槻の近辺でも不審なことが起き始める。

 この映画は序盤から中盤まではミステリー系のスリラー映画、終盤はアクション系のショッカー映画になります。ただ森田監督はスリラーはできても、ショッカー演出はあまり上手くないようで、中盤までのゾクゾクする怖さが、最後に腰砕けになってしまったような気もする。確かに恐いことは恐いんですが、それによって中盤までのピンと張りつめていた心理的恐怖が弛緩してしまうのです。人間は同時に2ヶ所で痛みを感じることができないといいます。歯が痛いときに頭を殴られると、一瞬歯の痛みを忘れてしまうらしい。この映画の終盤でそれまでの心理的恐怖感が薄らいでしまうのは、それと同じ理屈かもしれません。恐さが別の恐さによって中和されるという、いささか不思議な映画です。

 主人公・若槻を演じるのは、森田監督の『(ハル)』にも主演していた内野聖陽。不気味な菰田夫妻を、西村雅彦と大竹しのぶが演じている。登場人物の行動を極端に誇張するのは『39/刑法第三十九条』と同じパターンだが、今回はそれにブラック・ユーモアの味付けまでしている。主人公が必要以上に小心者でオドオドしていたり、西村雅彦が登場する時は必ず金属ドリルのような不愉快な雑音がかぶさったり、保険会社の会議場面が妙にのどかでBGMまで牧歌的だったり……。こうした演出が観客の心理的な「逃げ」になっているのだが、いつしかその逃げ場がなくなってくる恐さ!

 東宝配給の角川ホラーに比べると、配役に若々しさがない。これで若い女の子が映画館に呼べるかな?


ホームページ
ホームページへ