柳と風

1999/10/21 メディアボックス試写室
ガラスを買って窓枠にはめるのは苦労の連続なのです。
イランの新作キッズ・ムービー。スリル満点。by K. Hattori


 イラン映画です。子供が主役です。脚本はキアロスタミです。こう書いただけで、もう「その手の映画は何度も観たよ……」という声が聞こえてきそうですけど、いやいや、子供映画というのはまだまだ可能性があるもんですね。僕はこの映画を観て、本当に感心してしまった。ここ1ヶ月ほどの間で、この映画ほどスリルとサスペンスを感じさせる映画はありません。話そのものはなんでもないものなのに、それをじつにうまく描いている。

 学校でボール遊びをしているときに、誤って教室のガラスを割ってしまったクーチェキプールは、ガラス代を弁償しろと先生たちから責められている。父親は毎日休む間もなく働いているが、ガラス代を払う余裕が家にはない。そもそもみんなで遊んでいたのに、クーチェキだけが弁償するなんておかしいというのが父親の主張だ。でもそれを学校で直接先生に言うならまだしも、学校に来ようともせず、子供に文句を言っているのだから困るのはクーチェキなのだ。彼は「金を持ってくるまで授業を受けるな」と言われ、毎日廊下に立たされている。ガラスを割ってから2週間たった時、教頭先生から「今日中にガラスを入れなければ、明日からは学校に来るな」と最後通常を出されてしまう。クーチェキは何とかお金を工面して、ガラスを買いに行くのだが……。

 正直言って、学校でのやりとりや金の工面などを描いた序盤はあまり面白くない。寝不足気味の僕は、またしても眠りそうになってしまった。どうにもペースがもたもたしている。そのもたもたは、主人公クーチェキがガラス屋に入ったところでピークに達する。ガラス屋の老人のしゃべりが、徹底的にスローモー。しかしこのあたりから、逆に物語は加速して行くのです。自分の身の丈ほどもある大きな板ガラスを買ったものの、外は体ごと吹き飛ばされそうな暴風雨。はたしてクーチェキは、無事にガラスを学校まで運べるのだろうか?

 映画の後半はクーチェキのガラス運びです。観ている間ずっと、彼がいつガラスを落として割ってしまうかとハラハラしっぱなし。何もこんな時に限って風がびゅーびゅー吹きまくることはないだろうに、クーチェキの事情などお構いなしに風は吹き付けてくる。雨混じりの風で足下はぬかるみ、道には起伏もあって、いつ足を滑らせて転ぶかわからない。風が強く吹き付けるたびに、ガラスをかかえたクーチェキの小さな体は、あっちにフラフラ、こっちにフラフラ。危なかしくって観ていられない。スクリーンの中に飛び込んでいって、手助けしてあげたくなってしまう。たぶんみんなそうだと思うよ。

 ガラスを買って窓枠にはめるという、ただそれだけの話なのに、人間はここまでドキドキできるんですね。この映画の中では、クーチェキのガラス運びが、彼が人生で味わうすべての苦悩を象徴すかのように描かれている。大人の身勝手さや無責任さ、天気に象徴される間の悪さ、あてにならない友人の余計な親切など……。映画の最後に、僕は泣きそうになっちゃったよ。

(原題:Willow and Wind)


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