アローン
ひとり

1999/10/31 ル・シネマ2
(第12回東京国際映画祭)
入院した夫の付き添いのため、娘のアパートに転がり込んだ母親。
序盤は少しだるいが、中盤以降は面白い。by K. Hattori


 病気で都会の病院に入院した夫に付き添うため、一人暮らしをしている娘のアパートに転がり込んだ母。彼女にとって夫はよい伴侶でも父親でもなかったが、そんなことに一言も文句を言うことなく、ただ黙って夫に従っている。そんな両親に反発して家を飛び出したマリアは、突然現れた母親に戸惑っている。彼女は失業中で望まぬ妊娠をしており、しかもアルコール中毒気味だ。つき合っていた男に「子供を産みたい」と言った途端に捨てられてしまい、イライラしながら仕事をすればクビになり、現実を忘れたいばかりにグデングデンになるまで酔っぱらう。だが母はそんな娘に対しても、何も批判めいたことを言わない。それがマリアにとって、さらなる精神的な重荷に感じられてしまうのだ。

 地方から都会に出て「自由」を満喫したいと願いながら、どんどん孤独だけが増して行く主人公マリア。階下の部屋で一人暮らしをしている老人も、友といえば犬だけという様子。田舎で夫婦ふたり暮らしをしているマリアの母も、夫には自分の心の内を決して語ろうとしない。この映画に出てくる人たちは、すべてが孤独だ。その孤独をどうやって埋め合わせて行くのかが、この映画のテーマだと思う。主人公マリアは、自分自身の孤独から目をそらしている。浴びるように朝から酒を飲み、愛してもいない男と関係を持ち続ける。大都会の中で女ひとりが生きていくためには、男に負けないしぶとさと、他人を出し抜くずるさが必要。マリアはそれが身に付かない弱さを、酒で紛らわせているのかもしれない。

 同じ孤独を持っていても、マリアの母や階下の老人には気持ちにゆとりがある。彼らは自分自身の孤独と向き合い、それを自覚している。だからこそ孤独を癒すため、時には積極的に行動するし、他人をうらやんだり妬んだりもしない。この映画は序盤がかなりダレますが、マリアの母と階下の老人が交流を始めたあたりから、がぜん面白くなってきます。このふたりの間に芽生えた、恋慕のような友情のような関係が、見ていてとても気持ちいい。娘のマリアが何をしてもうまくいかないのに比べて、老いたふたりの関係はどんなトラブルがあってもスムーズに運んでいくように見える。生きることに対してあまり無理をせず、自然体にしているのがいいのかな。

 なかなかよい映画だと思いますが、日本での配給はまだ決まってないようです。この映画のクライマックスは、悲惨な境遇から脱出できないままでいたマリアが、母の友人である階下の老人との交流を通して幸せをつかんでいく食事シーン。ここで僕の隣に座っていた女性が感極まって泣き出したのが印象的でした。僕は泣くほどの感激を味わえませんでしたが、最後にはちょっぴり心が温かくなるような映画です。スペインのベニト・サンブラノ監督作品。この映画が長編劇場映画第1作だそうです。序盤をもう少し整理できると、さらに面白い映画になったと思います。ところで、なんでこんな邦題になったんだろうか……。『ひとり』のままでいいじゃないか。

(原題:Solas)


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