通貨と金髪

1999/11/15 GAGA試写室
バブル崩壊後の日本を「金髪フェチ」の目から描いた異色作。
監督は『鬼火』『皆月』の望月六郎。by K. Hattori


 望月六郎監督は現在『皆月』(これは傑作!)が公開中だが、彼がビデオで撮った新作が、BOX東中野の正月映画として公開される。大学で経済学を教えている中年助教授が、アメリカから留学してきた金髪女性の虜になってSMの世界にのめり込んで行くという、少しエロチックな異色ラブ・ストーリー。主演は諏訪太郎。名前を聞いてもなかなか顔が浮かばないけれど、顔を見れば「あの人か!」とすぐにわかる、日本映画界では特に出演作の多い名バイプレイヤーです。

 望月監督はダメな男を描かせると天下一品ですが、この映画の主人公・高坂朝雄も相当にダメな男です。映画の裏テーマは「バブル崩壊後の日本」。一事は世界でナンバーワンの経済大国になり、アメリカなど世界各地の土地や建物、それに企業を買い漁ったほどなのに、今はアメリカの好景気を指くわえて見ているしかない日本。表向きは日本とアメリカは互角だと言い張り、陰ではアメリカを小馬鹿にし、内心はアメリカに絶対かなわないと卑屈に膝を屈している日本。主人公の高坂は、そんな日本のすべてを体現した男です。彼自身が今の日本なのです。バブル時代には経済評論家としてマスコミの寵児になったものの、今ではひっそりと三流大学の助教授の地位に甘んじている。彼はバブルを煽っただけではなく、彼自身もバブルに煽られて莫大な借金を抱えた。自己破産した男に、もはや何の自身も自負もありません。彼は学生からバブルの責任を追及されても、反論する意志すら失っている。彼は「終わってしまった男」なのです。

 そんな彼のもとに、アメリカからの留学生アンナがやってくる。彼は一目で彼女の虜になる。彼女をビデオで盗み撮りして、隠微な妄想にふけるようになる。やがて彼女はそんな高坂の性癖を見抜いてか、サディスティックな命令を下すようになる。高坂は全裸になって小さなトランクに押し込まれ、アンナに東京中を引きずり回される。そして彼は、そんな行為の中に喜びを感じる……。

 アンナを演じているのは木村衣里というモデル出身の若い女優で、名前からわかるように彼女は日本人。映画の設定上、この役は外国人が演じなければならないと思うのですが、あえて髪を金髪に染めた日本人にアメリカからの留学生を演じさせるところが奇妙と言えば奇妙。新劇じゃあるまいし……。ただこうすることで、主人公の高坂が崇拝する対象が必ずしも「アメリカ人」ではなく、「金髪」に象徴される何かだということが浮き上がってくる。彼にとっては「アメリカ」「留学生」「アンナ」「金髪」という記号こそが重要なのです。彼はこうした記号の前に、我を忘れてひれ伏してしまう。

 高坂の中にある自己矛盾。外人女に対する愛憎入り交じったコンプレックス。一方で外人の女を蔑みながら、一方では外人の女を崇拝している高坂。日本を馬鹿にし、日本人の女を口汚く罵りながら、その日本人の女としかセックスできない高坂。高坂ほどでないにしても、こうした矛盾は日本人の普遍的な感情かもしれない。


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