真夏の夜の夢

1999/12/03 FOX試写室
シェイクスピアのラブコメディを豪華なキャストで映画化。
笑わせます。泣かせます。楽しい映画です。by K. Hattori


 シェイクスピアの喜劇「夏の夜の夢」を、『素晴らしき日』のマイケル・ホフマンが脚色・監督したラブ・コメディ。原作が発表されたのは16世紀末だが、この映画では物語の舞台を19世紀のイタリア某所に設定し、4人の男女が織りなす恋のすれ違い、平凡な町人と妖精のつかの間の恋などを描いている。出演は妖精王オベロンにルパート・エベレット、その妃タイタニアにミシェル・ファイファー、いたずら者の妖精パックにスタンリー・トゥッチ、芝居好きの町人ニック・ボトムにケビン・クライン、領主にデビッド・ストラザーン、その婚約者にソフィー・マルソーなど、かなりゴージャスな顔ぶれ。恋の鞘当てを繰り返す若い男女には、TVシリーズ「アリー・マイ・ラブ」のキャリスタ・フロックハート、『ベルベット・ゴールドマイン』のクリスチャン・ベール、舞台でも活躍中のアンナ・フレイル、ドミニク・ウェストが扮している。

 俳優たちも豪華ですが、セットや衣装などデザイナーの仕事ぶりが素晴らしい。人間たちの世界と妖精たちの世界を明確に描きわけながら、同時に継ぎ目のない一体感を作り出しています。19世紀のイタリアという舞台設定が、ここで生きてくる。シェイクスピア時代を舞台にしては、人間の世界もおとぎ話の世界になってしまうし、場所がイギリスやギリシャでは生々しすぎたり、逆に縁遠くて馴染みがなかったりする。人々の生活ぶりは今とあまり変わらないのに、移動には馬や馬車、それに自転車が使われていた時代、そして、ヨーロッパ文明の中心からちょっと離れたイタリアの片田舎という場所……。これがじつにうまくはまっている。クラシックの既成曲を使う音楽の構成は、時に鼻につくこともあるけれど(特に「乾杯の歌」はかけすぎ)、メンデルスゾーンの「結婚行進曲」がかかるところは、全身が震えるような感動があるわけでして……。

 物語の中心は、ハーミアとライサンダーのカップルに、ハーミアの婚約者ディミトリアス、ディミトリアスに恋いこがれるヘレナを加えた恋のすれ違い。ヘレナに同情した妖精王オベロンが、秘密の惚れ薬を使ってディミトリアスの目を彼女に向けようとするのだが、妖精パックの早とちりからライサンダーに薬を使ってしまう……。妖精たちのいたずらで、ヘレナに愛の言葉をささやく男たちの姿が、かなり辛辣に描かれています。観客はその心変わりを薬の効果だと知っていますが、当人たちは自分たちの気持ちが本心だと信じている。事実それは本心なのでしょう。でも「ハーミアへの気持ちは気の迷いだった。今ようやくそれに気づいた」「あなたへの気持ちが嘘なら、なぜ今こうして涙が出るのだ!」などと男たちが大まじめに語れば語るほど、その言葉が軽薄で舞い上がったものになる面白さ。こういうことは、日常生活の中でもしばしばあることかもしれません。

 劇中劇はまるで『ロミオとジュリエット』のパロディ。悲劇と喜劇は、まさに紙一重なのです。

(原題:WILLIAM SHAKESPEARE'S A MIDSUMMER NIGHT'S DREAM)


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