タイムレス メロディ

1999/12/08 映画美学校試写室
さびれたビリヤード場を舞台にした異色の青春映画。
第9回PFFスカラシップ作品。監督は奥原浩志。by K. Hattori


 PFF(ぴあフィルム・フェスティバル)の第9回スカラシップ作品でもある、奥原浩志監督のデビュー作。さびれたビリヤード場で働く青年・河本と、バンド仲間のチカコ、ビリヤード場の常連でもある中年男・篠田の関係を中心にした3部形式のドラマだ。インディーズ映画特有のざらついた画面は、最近ほとんど「つまらない映画」の予兆になりつつあるのだが、この映画は冒頭5分でその不安を吹き飛ばす。レンタカー屋で知り合った青年と中年男の車中での会話が面白く、物語の中にぐんぐん引き込まれてしまうのだ。この第1部“イントロダクション”と第2部“スクラッチ”の間にエピソードの連続性はないのだが、独特の画質や空気感、会話のテンポなどが、マリネのような統一感を生み出している。

 ドラマの中心は“スクラッチ”と題された第2部であり、第1部“イントロダクション”や第3部“タイムレスメロディ”はその付属物のようにも思える。1,2,3と配置されているエピソードは、実際には2,1,3と流れる時間を解体して再配置したものだが、このつながりが瞬時には飲み込みにくいのが難所かもしれない。光線の具合もあるのだが、ピアノ調律師の田村とレンタカー屋の青年が同一人物だとすぐにはわかりにくいし、第1部のエピソードが第2部と第3部の間に挿入されるものだというガイドやヒントもない。各エピソードが隙間なくぴったりとかみ合うのではなく、それぞれのパーツが自由自在に展開しているように見えるのだ。物語の流れから見たとき、余計なエピソードが多すぎる。ただしこうしたルーズさが、この映画の魅力でもあるのだ。それはこの映画のテーマにも強く結びついている。

 主人公・河本とバンド仲間であるチカコの微妙な関係が、映画の雰囲気を決定的なものにしている中心だ。単なるバンド仲間にしては親しすぎ、かといって恋人同士というわけでもなく、互いへの好意は隠さないが、かといってその感情が恋愛に発展するわけでもなさそうな関係。「友達以上、恋人未満」と言ってしまえば簡単だが、じつはこうしたどっちつかずの関係が気持ちよかったりすることもあるのです。この映画の気持ちよさは、こうした境界上の人間関係が肯定的に描かれているところだと思う。ビリヤード場の常連である篠田など、生きているんだか死んでいるんだか、善人なんだか悪党なんだかさっぱりわからない。チカコの関係もなにやらわけあり風。調律師の田村は、父親を憎んでいるのか愛しているのか整理しきれない。そんな中で、チカコは自分の将来を決めかねて、ぐずぐずと時を過ごしている。監督はこの映画を『場所の移動が全く無いロードムービー』と述べている。この映画に登場する人々は、全員がある状況から別の状況へと移り変わる中間地点に立っている。

 河本役の青柳拓次とチカコ役の市川実日子が魅力的。ともに演技者としてはまったくの素人のようだが、存在感たっぷりで先々が楽しみ。こうした若手をベテラン俳優たちが常にサポートする構成もうまい。


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