ポゼスト
狂血

1999/12/27 TCC試写室
ルーマニアから来たその男は体内にサタンを飼っていた……。
医療サスペンス+オカルトという不思議な映画。by K. Hattori


 デンマークの病院に、空港で倒れた瀕死の病人がかつぎ込まれる。男は間もなく死亡。その症状はエボラ出血熱に酷似していたが、体内から病因のウィルスは発見されなかった。病院の疫病担当医ソーレンは、病気の原因が未知のウィルスであると考える。だが上司はそんな彼の意見を若い医師特有の野心だと考え、詳しい検査をすることなく、病人の遺体を出身地のルーマニアに送り返してしまう。医療データベースを検索してルーマニアでも同じ症状の患者がいたことを突き止めたソーレンは、病気の原因を突き止めるために現地へと飛ぶ……。

 未知のウィルスが人類を襲うというバイオハザード・パニックの要素と、世紀の変わり目にサタンが甦るというオカルト要素が合体した異色作。サタンの再臨というモチーフは新約聖書の「ヨハネの黙示録」からだろうが、登場するサタン像がいまひとつ凄味に欠けている。この映画の悪魔は、甦った後で一体何をやるつもりなのだろうか。サタンがしょぼいという点では『エンド・オブ・デイズ』も評判が悪いのだが、こちらのサタンには生贄の儀式を行って次の千年を支配するという具体的な目標があった。だがこの映画では、悪魔の目的がよくわからない。悪魔ハンターの修道士から逃げるため、次々と人間の体を渡り歩いているだけのようにも見えてしまう。

 悪魔が“感染”するというアイデアは『悪魔を憐れむ歌』にも登場したが、この映画ではそれを文字通り「病気の感染」のように見せているのがユニークな程度。最初は病気にしか見えなかった現象が、じつは悪魔だったというのは『エクソシスト』などにもある典型的なモダンホラーの手法だったりもする。サタンとそれを追う修道士の関係は、『ドラキュラ』に出てくるドラキュラ伯爵とヘルシング教授の関係にも似ている。基本的なプロットそのものに、新しさはないのだ。しかもこの映画の中の悪魔は1対1で感染して行くだけなので、いつまでたってもこの世の中にいるサタンはひとりだけ。ここにはドラキュラ映画にあったような「吸血鬼が増える」という要素もなければ、バイオハザードとしての危機感もありはしない。僕はこの程度のサタンなら、人類にとってさして危険がないように思うんですけど……。

 同じ話を作るにしても、登場人物たちのキャラクターにもう少し掘り下げがあると、ドラマに厚みが出てきたと思う。例えば主人公の医者としての野心や葛藤がメインになれば、医療サスペンス映画の要素が強まって、もっとハラハラする物語になったと思う。ルーマニアからサタンを追ってきたドイツ人修道士の役をもっと大きくし、医者と修道士の異色バディ・ムービーにしてしまう手もある。面白くする方法はいくらでもあるのに、この映画では、その辺も扱いが中途半端だった。

 『エンド・オブ・デイズ』でサタニストを演じたウド・キアーが、今回はサタンを倒そうとする武装修道士役で出演。やってることは「善」なのに、役者が悪党面だから、観客の意識も混乱してしまう。

(原題:Besat)


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