ミステリアス ピカソ
〜天才の秘密〜

1998/05/07 ユニジャパン試写室
1956年に製作された天才画家パブロ・ピカソの記録映画。
ピカソの作品制作過程が全部わかります。by K. Hattori


 小学生でも知っている超有名画家、パブロ・ピカソの作品作りの過程を、克明にカメラで追ったドキュメンタリー映画。1枚の紙を障子紙のように枠に張った物を垂直に固定し、片方からピカソがマーカーや筆で絵を描く。紙にインクや絵の具がにじんで裏写りするところを、紙の反対側に備え付けたカメラで撮影するわけです。ピカソが紙の上に筆を走らせる様子が、リアルタイムに記録されて行く様子はスリリング。簡単な線が幾つか集まって、やがてそこに具体的な絵がおぼろげな輪郭を現し、見る見るうちに1枚の絵に仕上がって行く。筆使いはどこまでも奔放で、一見すると幼児の落書きのようにも見えるのですが、線には迷いがなく、どの線も的確に、あるべき場所にあるべき太さで描かれている(ように見える)。スピードの速さと、あまりにも大雑把に感じられる素描を観ていると、頭の中で「お笑いマンガ道場」という言葉がこだまのように行き来してしまいました。

 この映画は、1956年にアンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督が撮ったもので、その年のカンヌ映画祭では審査員特別賞を受賞。'84年にはフランス政府から国宝に指定されたという作品です。映画の中で描かれるピカソの絵は約20枚ありますが、これらは撮影後にすべて破棄され、映画の中でしかお目にかかれないのだそうです。映画の最後に、大きなカンバスにピカソが笑いながら「Picasso」とサインしますが、これは本作全体がピカソの作品なのだという意思表示かもしれません。

 クルーゾー監督は、本作の直前に『恐怖の報酬』や『悪魔のような女』を撮っていることからもわかる通り、フランス随一のサスペンス映画の巨匠として知られる人物。当然この映画もただの記録映画であるはずがなく、随所にサスペンスたっぷりの仕掛けが用意されている。例えば、画家ピカソを撮った硬質なモノクローム画像と、絵を撮影するカラー画像との対比。絵の制作課程はモノクロフィルムとカラーフィルムで撮影されていますが、モノクロの線画だけでは、それがモノクロかカラーか判別できない。モノクロの線画の上に、色とりどりのインクが載せられて行く場面には、心地よい驚きがあります。映画の中の仕掛けは他にもあって、カメラの中に残った15分ぶんのフィルムを回す間に、1枚の絵を完成できるかという時間制限サスペンスも面白かった。これはシナリオを作って、カットを割って撮影してます。映画の中では、一番ドラマに近い部分でしょう。

 映画はモノクロスタンダード画面から始まるのですが、やがてカラーが混じり、スクリーンサイズもスタンダードからシネマスコープになる。映画の途中で、スクリーンの幕が横にスルスル開いて行くのは、ちょっと驚くよ。この後スクリーンの中で繰り広げられる出来事には、それ以上に驚かされました。これは観てのお楽しみ。

 画家の仕事ぶりは、普通、完成した絵として観ることしかできません。でもこの映画では、ピカソの制作課程が逐一観られる。美術に興味のある人は必見でしょう。

(原題:LE MYSTERE PICASSO)


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