2000年11月の出来事

11月1日(水)
 なんだかお疲れ気味。今日は映画祭は休みにして、GAGAで『ピッチブラック』を観ただけ。雨降りもちょっと憂鬱。

11月2日(木)
 体調悪し。今日も映画祭はサボリ。ほとんど登校拒否の子供みたいな気分。何となく渋谷に足を向けるのが憂鬱なんだよなぁ。午後に試写で『北緯17度』を観るが、少しうとうとしてしまった。いかんなぁ……。
 八重洲ブックセンターで大佛次郎の「鞍馬天狗」シリーズを4冊購入。小学館文庫から5冊出ているのだが、5巻目の「地獄太平記」は徳間文庫版を持っているので不要。夜は来週以降の試写スケジュールをまとめる。「我が心の稲垣浩」は面白い。ぐいぐい読み進む。紙が厚いこともあって、やけにはかどって見えるのだ。紀伊國屋書店の通販サイトで、キリスト教関係の書籍を2万円分も注文してしまった。たぶん半分は絶版で手に入らないと思うけど。

11月3日(文化の日・金)
 午前中にぼちぼち映画の感想を書いたりして、午後からいい加減やばいので映画祭に出かける。『僕たちのアナ・バナナ』を試写で観て、『サングラドール』の映画字幕試写を観て、『天国から来た男たち』を観る。

11月4日(土)
 映画祭は日曜までだが、個人的には昨日でおしまい。今日から平常勤務。土曜日は原稿書き。早速仕事用の原稿を何本か書いて入稿する。昼間は久しぶりにはれたので少し外出。

11月5日(日)
 午前中は久しぶりにCS。午後は散髪に行ってのび放題の髪を切る。洗濯物をたたみ、新たに洗濯機を回す。夕方以降は原稿書き。山本夏彦の「百年分を一時間で」を読了。

11月6日(月)
 今日から平常通りの試写通いになると思ったのだが、身体がだるい、重い、なんとなく外出する気になれない。仕事もあったので今日は試写に出るのをやめて、1日部屋にいた。午前中に仕事を少しやってから、午後はちょっと横になる。仮眠するつもりが、あっという間に夕方になっていたのには驚いた。やっぱり体調が悪いのかも。風邪気味なのかもしれない。夜は仕事の原稿を入稿して、試写のスケジュールを組んで、新たな原稿の発注を受けたのでその雛形を作って……。試写を観なくても、それなりに時間は過ぎていく。
 『ユマニテ』の試写案内が来たのには驚いた。これは昨年のフランス映画祭で『ヒューマニティ』というタイトルで上映されたのだが、僕はあまりの暗さと重さに辟易した作品。でもそれより暗い『ダンサー・イン・ザ・ダーク』が全国公開されるような世の中だから、『ユマニテ』が公開されてもおかしくないのかもね。

11月7日(火)
 どういうわけか新文芸坐のパンフレットを手伝うことになった。原稿料はなし。でもある種の使命感で原稿を書く。知人が運営にたずさわっているということも、手伝う理由のひとつ。基本的に僕は義理人情で動くタイプなのです。そんなわけで、午前中はその原稿書き。
 午後は映画美学校でラブシネマ第4弾『張り込み』。監督は篠原哲雄。前半の不愉快さがどうしようもなくあとあとまで悪印象を残してしまう。ここが解決できればもっと面白くなったかも。2本目からは渋谷のシネカノン。相米慎二監督の新作『風花』は、浅野忠信のヨッパライぶりが素晴らしい。導入部の長回しと、クライマックスの彷徨が相米映画だなぁ……。回想シーンをフラッシュさせる構成が、ややわかりにくい。3本目はベルギーのアニメーション監督ラウル・セルヴェの特集『夜の蝶』。『夜の蝶』を含む短編5本で、上映時間は47分30秒。『ハーピア』のグロテスク、クロモフォビアの反戦メッセージ、『人魚』の役人批判とメルヘン、『語るべきか、あるいは語らざるべきか』の皮肉、そして圧倒的に美しい『夜の蝶』の素晴らしさ。ちょっと打ちのめされてしまった。
 大高宏雄の「日本映画逆転のシナリオ」を購入。半分ぐらいは知識としてボンヤリと知っていることが、すっきりまとめてあるのを読むのは心地よい。大佛次郎の「鞍馬天狗・角兵衛獅子」も読み始める。映画版の『角兵衛獅子』はアラカン主演のものを3本ぐらい観ているけど、原作を読むのはこれがはじめて。また映画も観たくなる。

11月8日(水)
 午前中に映画の感想まとめる。午後はGAGAで『ファイナル・デスティネーション』の試写。面白い。バスルームのシーンはリメイク版の『サイコ』よりよくできてる。かなり恐い。最後はちょっと笑える。

11月9日(木)
 午前中に前日観た映画の感想を書き、仕事の原稿も書く。午後はTCCで『デッド・アウェイ/バンコク大捜査線』。銃撃戦バリバリのタイ映画だが、物語が追いにくいところがあるし、終盤は少し間延びしている印象。でもこういうアクションを売りにした映画が、今はアジア各地で作られているのだ。日本はいいのか、今のままで? 2本目はメディアボックスで『決戦・紫禁城』。アンディ・ラウとイーイキン・チェンが紫禁城の屋根の上でカンフー対決するという、コミカルなアクション・ムービー。ラストシーンに違和感あり。ここは演出次第でホロリとくるシーンだと思うんだけど、日本の時代劇と香港映画じゃ感覚が違うのかもしれない。3本目はキリンビールで『楓牙(ふうが)』というインディーズ映画の上映会。モノクロの8ミリ映画で、最後はビデオで編集してある作品。キリンアートアワードの最優秀作品賞を受賞した自主映画だ。これがなんと本格時代劇だったりする。台詞や衣装などはあえて現代風の匂いもあって、国籍や時代が不詳なところが今風なのか。8ミリをモノクロにテレシネしたハイコントラストの映像は、戦前のサイレント時代劇を観ているようで面白かった。

11月10日(金)
 朝のうちに昨日観た映画の感想を2本書いてしまう。10時から東宝東和で『シックス・デイ』の試写。シュワルツェネッガーの最新作で、なかなか楽しい映画になっている。午後はヘラルドで『ボディ・ショット』という青春映画を観る。記憶をなくすまで酒を飲むのはやめようという映画か? 新歓コンパのシーズン前に、各大学はこの映画のプリントを借りて学内で上映すればいい。3本目はメディアボックスでヘルツォークの『小人の饗宴』。インパクト強すぎて、意識不明の重体になってしまった。(少し寝てしまったという意味。)物語なんてない。ひたすら小人たちによる施設の破壊活動が続く映画。最後のゲラゲラ笑いが恐すぎる。4本目は同じ試写室でケネス・ブラナーの『恋の骨折り損』。ミュージカル映画なんですけど、これは過去のミュージカル映画や名曲への冒涜ではないかと思うぐらいひどい。ミュージカルシーンでこんなに気分が悪くなる映画も珍しい。
 INAXのブックギャラリーで渡邊昌美の「異端審問」(講談社現代新書)を発見したので即刻購入。これはつい先日紀伊國屋に注文したが、版元品切れで注文がキャンセルされてしまったのだ。岩波書店から出ていた同じ著者の「異端カタリ派の研究」も品切れでキャンセルになった。どこかにないかなぁ。

11月11日(土)
 朝から溜まった映画の感想を書いたり、仕事の原稿を書いたりしていたのだが、このペースではあてがわれた仕事をすべて週末でこなすのは不可能。月曜日以降の試写予定を調節して、仕事用の原稿を書く時間を捻出する。正月映画の試写も一段落したこの時期は、幸いなことに試写スケジュールにもわりと余裕があったりする。今回っている試写はたいてい正月第2弾作品だし、ものによっては来年春以降の上映作品などもある。これらはほぼ今年いっぱい試写が回るので、作業状況によってはどんどん試写の予定を後に回してしまえる。そうは言っても、あまり後先考えずに後回しにすると、そのツケはどこかで払うことになるんだけど……。
 「日本映画逆転のシナリオ」をほぼ読了。第8章の名画座についての記事を読みながら、池袋に12月開館になる新文芸坐について考えていた。また、並木座の意味についても考えさせられる。閉館したときにすぐ考えたんだけど、並木座程度の設備ならデパートのテナントにすることも可能だろう。家賃や定休日や営業時間の問題は当然あるけれど、松屋か三越あたりでテナントとして名画座を入れることを考えてもいいんじゃなかろうか。並木坐では定期的に小津・溝口・木下・成瀬・黒澤などの特集をやっており、これらの作品がいつでも観られるという安心感があった。十年一日のごとく定番の番組しかかからなかったけれど、それがこの映画館の価値だったと思う。

11月12日(日)
 午前中はCS。昼は近くの公園にたくさんテントが出て、バザーや屋台が開かれていた。そこで簡単に食事。夕方に少し昼寝して。夕食後に仕事を再開。まずい。ぜんぜんはかどらないぞ。明日1日で何とかなるんだろうか……。ちょっと不安もあるが、たぶん何とかなるんだろう。今までもそうやってきたし。気になるのは体調。

11月13日(月)
 今日は仕事の日と決めている。メルマガの編集とDDI用の原稿送信を先にやり、あとは黙々と週刊アスキーの仕事をこなしていく。WEBの紹介があるので、メモを取りながら各WEBサイトを参照。午後は映画美学校で『ベトナムから遠く離れて』の試写を観て、帰宅してからまた仕事を続ける。夜8時頃には仕上がって、メールで入稿してしまう。いくつか観ていない映画もあったのだが、それこそWEBの情報を頼りに文字を埋める。『グリンチ』は来月16日には封切りなのに、マスコミ向けの完成披露試写は今月末。『レッド・プラネット』に至っては「今月中には試写ができると思うんですが」との説明だった。『グリンチ』は面白そうだなぁ……。
 仕事の合間に高瀬監督の「我が心の稲垣浩」をどんどん読み進める。著者本人が登場するようになって、いよいよ面白くなってくる。著者の体験談などが、エピソードに厚みと生々しさを与えているのだ。これまでは高瀬監督自身、資料を使ったり聞き書きだったり登場する作品を観ていなかったり(作品そのものが失われている)ということが多いのだが、戦後の東宝時代になるとエピソードは無尽蔵で、高瀬監督本人の筆も乗っている感じ。それにしても、稲垣浩という人は戦前の鳴滝組から時代劇映画末期まで活躍した人だから、日本の時代劇映画の歴史をひとりでほぼ全部カバーしているのだなぁ。テレビ時代劇の演出家として「鬼平犯科帳」などを撮ることになる高瀬監督が、稲垣監督崇拝者なのがよくわかる。高瀬監督は黒澤作品にも何本か助監督として参加しているんだけど、誰がなんと言ったって「黒澤よりも稲垣が偉い!」という人なのだ。「我が心の稲垣浩」は、そんな高瀬監督の気持ちがいっぱい詰まっている。全部読み終わったら、高瀬監督に手紙でも書こうと思う。

11月14日(火)
 午前中に観た映画の感想を書いてしまう。「我が心の稲垣浩」を読了。
 午後はヘラルドで『リトル・ダンサー』を観ようと思ったのだが、5分前に試写室に着いたらもう満員で入れなかった。やけに混雑しているので、30分前に来れば確実と言われたのだが。う〜ん、なぜ混んでるのかなぁ。映画の公開は1月下旬なので、12月に試写を観ることになると思う。時間が空いてしまったので教文館へ。中川健一の「ユダヤ入門・その虚像と実像」(いのちのことば社卸部)を購入。巷をにぎわす日ユ同祖説やユダヤ陰謀説をコテンパンにやっつけるくだりは痛快。おおむね公平な内容だと思うのだが、問題はイスラエルの建国とパレスチナ紛争についての記述。著者は『私は聖書を神のことばと信じているし、イスラエル国家の再生は聖書の預言の成就であると受け取っている。それどころか、そのような預言の成就こそ、いかに聖書が真実であるかを証明するものであると思っている。それは、いわば私の内的確信である』(P.140)と告白する。著者はこの確信を告白しつつ、同時に『聖書的観点から、あるいはキリスト教的観点からイスラエル国家の正統性を論じることは、なんら問題の解決にならないし、ある場合にはかえって有害である』とも述べる。だからイスラエル建国やアラブとの紛争についての記述は十分に注意深いのだが、それでもやっぱり著者の『内的確信』が記述の公平性を損なっている場面があるように思える。この本は、この日のうちに読んでしまう。
 3時半からTCCでスタンリー・クワンの『異邦人たち』の試写。大沢たかおや桃井かおり、ミッシェル・リーやスー・チーなどが出演する作品だが、映画としては映像以外にあまり観るべきところがないような気がする。大沢たかおのナレーションが映画にべったりくっつくのは、ウォン・カーウァイ映画の影響かなぁ……。6時からはイマジカで鈴木清順の『陽炎座』。幻想的なイメージが別のイメージを喚起する、ヴィジュアルの無限連鎖法。大きな桶が真っ赤なホオズキで埋め尽くされるシーンなど、ぞくぞくしてしまう。

11月15日(水)
 昨日から「10人の聖なる人々」という本を読み始めた。ハードカバーなので自宅用。外出時は「鞍馬天狗」を読んでいる。面白い。
 午前中は昨日観た映画の感想書いて、午後は試写。ソニーの試写室で『バーティカル・リミット』を観るつもりだったのだが、到着したら『BROTHER』をやっている。また日付の間違いだ。今年で何度目かなぁ。しょうがないから『バーティカル・リミット』は別の日に回し、自転車で東宝までひとっ走りして『ゴジラ×メガギラス』を観る。う〜ん、すごく面白いところもあるし、ワクワクするところもあるけど、駄目なところも多い。でもこれは、観た後で「あそこはこうしたほうがいい」とか「こんなふうにすればもっと面白い」と語り合える映画になってます。前作よりは格段の進歩がある。東宝を出たら小雨。自転車移動なのにちょっと辛い。2本目はメディアボックスで『ザ・カップ/夢のアンテナ』というブータン映画。監督も出演者もスタッフも、全部チベット仏教の坊さんという不思議な映画だけれど、これがなかなかよくできている。
 本来は夕方から『ゴジラ』を観るはずだったのに午後一に回したため時間があき、いきなりだが初台のオペラシティで「大聖書展」を見ることを決意。会期が今週いっぱいなので諦めていたのだが、切符はもらっていたので交通費と時間さえあればOK。新宿から初台まで歩き、会場に入るとすごい人混み。一番混むのは「死海写本」の展示コーナー。でも僕が興味深く見ていたのは、クムランから見つかった土器類や、貴重な聖書のファクシミリ版というもの。土器類は新約聖書と同時代のものなので、イエスや弟子たちの暮らしぶりが何となく想像できる。燭台のたとえ話に登場するのはどんなランプだったのだろう、と考えながら陶製のランプを眺めたり、どんなコップでワインを飲んでいたのだろうかと思いながら陶製のコップを見る面白さ。これに比べれば、写本そのものはゴミクズみたいなものだ。実際、目で見てもただのボロでしかないしね。ファクシミリ版で面白かったのは、初期の聖書の「コデックス」というのが見られたこと。巻物ではなく、羊皮紙の裏表に文字を書いて冊子にしたもの。板の表紙が付いていて、革ひもでとめる。たぶん初期のキリスト教徒たちは、こうしたコデックスを持ってあちこち伝道の旅をしていたのだろう。会場で牧師夫人と娘さんにあったので挨拶。

11月16日(木)
 朝のうちに映画の感想の残りを書き上げ、午前中から『ザ・セル』の試写。ビジュアルはすごいけど、人物の掘り下げをもう少し行った方がよかったと思う。午後はKSSで『Paradice』の試写。THE MODSの森山達也の初監督映画だが、THE MODSのファン以外にはあまり面白くないんじゃなかろうか。上映時間が短いので、本格的に退屈する前に終わってしまうのが救い。次の試写まで時間があったので、五反田のブックオフで書籍の探索。また3千円も本を買ってしまった。3本目はTCC試写室で『わすれな草』の試写。エリック・ツァンの主演映画だ。もう少しコミカルな作りにしてもよかったと思うけど、今ひとつかなぁ。この日はこれで試写はおしまい。
 夜は西仲の岸田屋に数年ぶりに行って、名物の煮込みを食べた。酒もかなり飲んで、この夜は仕事にならず。

11月17日(金)
 そんなに飲んだつもりもないのだが、見事に二日酔い気味。アスピリンを飲んでも頭痛が治まらない。結局午前中は映画の感想も書けず、ぼーっとしていた。食事だけはきちんと取る。飲んだ翌日は、なぜこんなに腹が減るんだろうか。でも二日酔い気味なので、ちょっと気持ち悪いかも。結局午後に予定していた試写を2本別の日に回して、夕方からイマジカで『夢二』を観る。ちょっと寝たぞ。鈴木清順の大正三部作はこれで全部観たんだけど、どの映画を観ても必ず寝るのはなぜだろう。嫌いじゃないんだけど、ついウトウトしてしまう。現実の空間をどんどん逸脱していくあたりが、ちょうど意識がもうろうとして眠りに入るあたりの感覚と似ているのかもしれない。
 新宿にでて簡単に食事し、10時過ぎから東京アイマックス・シアターで『サイバーワールド』の試写。3D映画のオムニバスだが、もともとCG展などに出していた2Dの作品を大画面用の3D作品に仕立て直したものが多い。新鮮味はあまりない。『アンツ』の3Dバージョンは面白かったけど、やってることは劇場版と同じだからなぁ。それに日本語吹替版だと、ウディ・アレンやスタローンの声じゃないし……。
 「鞍馬天狗・角兵衛獅子」を読了。アラカン主演で映画化されたものは3本ほど観ているが、水牢のくだりはどれも原作を大きく変えている。確かにこの原作のままでは、アラカン主演映画にならないけどね。新宿の古本屋で新書を3冊購入。また読まなければならない本が増えてしまった。現在「読まなければならない本」として積み上げてあるのは、新書や単行本など20冊。その他に旧約聖書を読みかけのまま中断しているし、新約外典と使徒教父文書も読みかけたまま放り投げている。このままでは永久に、本を読み終わることがないだろう。

11月18日(土)
 朝は少し寝坊した。これは目覚ましをかけず、わざと寝坊したもの。午前中は仕事もせず、映画の感想も書かず、パソ通のログを読んでコメントを書いたりしている。昼過ぎから外出。夕食は築地の加賀屋で串焼きとビール。ビールを飲めば当然その後は仕事にならないのだが、それでも今日中に入稿しなければならない原稿があったので、シャワーを浴びて酔いを醒ましてから原稿を書いて入稿してしまう。

11月19日(日)
 「10人の聖なる人々」を読了。少し物足りない。このボリュームで10人の人生を紹介すれば、ひとりに割けるスペースは少なくなってしまうんだろう。参考文献が列記してあるから、興味があればこれ以上のことは自分で調べろということか。講談社現代新書の「コーランと聖書の対話」という本を読み始めたのだが、これはひどくつまらない。エジプトのコプト教会を紹介している本は珍しいと思って購入したのだが、肝心の教義の解説などは文章に混乱があって、何が書いてあるのかさっぱりわからない。本のかなりの部分を占める著者の旅行記は余計だし、こうした平易な部分ですら文章がおかしい。これは著者の癖なのだろう。こんな文章には編集者が手を入れるべきだった。並行してラッセルの「悪魔の系譜」を読み始める。
 朝からやたらと寒い。午前中はCS。そろそろクリスマスの準備。午後は少し昼寝して、夕方から仕事。

11月20日(月)
 「コーランと聖書の対話」を読了。やはりひどくつまらない本だった。コプト教会の単性説についての説明もないし、コプト教会とカトリック教会の教義がどう違うかも説明されていない。本の狙いはエジプトでキリスト教とイスラム教が共存している様子を紹介することにあるのだろうが、個々の歴史的な背景や教義の違い(イスラム教にもさまざまな宗派がある)をまったく問おうとしていない。著者の体験談をベースにした記述が多すぎるし、著者のアラビア語知識をひけらかそうという態度も鼻につく。半分以上は旅行記なので、講談社現代新書ではなく、カラー写真を多く含んだフォト・エッセイのような形にすればよかった企画かもしれない。かわりに渡邊昌美の「異端審問」を読み始める。これはさすがに面白い。同じ著者の「異端カタリ派の研究」が品切れで手に入らないのは残念だ。いずれ何としても手に入れたい。
 午前中は仕事の原稿書きと入稿。メルマガの編集。DDI用の原稿の入稿。午後は映画美学校で『ファストフード・ファストウーマン』の試写。ぜんぜん知らない監督の作品だったが、これは面白かった。2本目はFOXでマーティン・ローレンス主演の『ビッグ・ママズ・ハウス』。なんか、エディ・マーフィの亜流映画になってないか? 脇役の使い方なんかはうまいんだけどね。3本目はTCCで『アタック・オブ・ザ・ジャイアント・ケーキ』。これタイトルに偽りありで、巨大化して人間を襲うのはケーキじゃなくて、挽き肉やナスやトマトを使ったギリシャ料理だぞ。

11月21日(火)
 午前中に昨日観た映画の感想を書く。
 午後は内幸町に引っ越したワーナーで『ペイ・フォワード』の試写。他人から受けた親切を、3人の別の人に順繰りに「先に送る」ことで世の中を変えようとした少年の物語。宗教臭のまったくない、現代版イエス・キリスト伝の一種。これは「汝の隣人を愛せ」という聖書の教えとさして変わらないようにも思えるが、3人に恩返しするという数量限定がなかなか微妙なところでうまい。不幸の手紙の反対で幸福の手紙というのがあるが、それを実際の行為で行うわけだ。原理は単純。でもその単純な中にドラマがある。
 2本目は東宝で黒沢清の『回路』。ほとんど中身は『CURE 2』といった雰囲気。生理的にいやな感じがする映画。すごく恐い。この映画で最大のショックは、女性の投身自殺をワンカットで処理するところ。この衝撃は『ジョー・ブラックをよろしく』でブラピが自動車に撥ねられるシーンに匹敵する。トリック撮影だとわかっていても、「うわっ、嫌なもの見ちゃったなぁ」と思う。完成度の高い映画なので、ぜひヒットしてほしい。ターゲットは女子中高生だろうが、彼女たちがコミュニケーション・ツールにしているメールや携帯を小道具に使うあたりもなかなかいい作戦かもしれない。
 3本目はベニスを舞台にした大人のラブコメディ『ベニスで恋して』。『回路』の後がこれだから、多少は口直しになったかな。他愛のない話と言えばそれまでだけど、人間は時にこうした他愛のなさを好むものです。僕は好きな映画。

11月22日(水)
 午前中に映画の感想を書いていたのだが、『ベニスで恋して』の感想だけが手つかずのまま残る。
 午後はソニーで『バーティカル・リミット』。先日未編集特別映像というのを観ていたので、見せ場のいくつかは既に観たことがあり新鮮味は艶消し。映像はすごいけど、ドラマ部分は少し弱いかな。これはDVDあたりで特別編が出そうな気がする。その後映画美学校に移動し、中田秀夫の『サディスティック&マゾヒスティック』という、小沼勝監督についてのドキュメンタリー映画と、小沼監督の『生贄夫人』を2本続けて観る。『生贄夫人』の浣腸シーンは結構そそるものがあるなぁ。死にたくなるほどの羞恥心と否定しがたい快楽のせめぎ合いが、観る側にもひしひしと伝わってくるような気がする。緊縛とかむち打ちとかローソクとかには、僕はあまり興味がない。剃毛プレイもあまりタブーという感じがしないし……。でも浣腸プレイは自分では絶対にやらないだろうと思うから、フィクショナルな幻想として楽しめるのかもしれない。
 帰宅途中にウォッカを買って帰る。

11月23日(勤労感謝の日・木)
 午前中に映画の感想まとめようとしたのだが、時間がたっぷりあると思うと案外進まないものだ。昼頃から買物で外出。晴れていたので近所の公園に行ったりする。夜から感想書きの続き。

11月24日(金)
 午前中は仕事の原稿をひとつ仕上げ、別の仕事の準備に資料集めをしたりする。といっても、百科事典から必要項目をプリントアウトするのがメイン。あとはこれを適当につなぎ合わせて、自分なりにコメントを少し添えれば、コラムの一丁上がりということになる。
 午後は映画美学校で『ウィンタースリーパー』。映画の途中でトイレに立つという失態を演じる。映画はまぁまぁ面白いけど、『ラン・ローラ・ラン』の監督だからといって同じ面白さを求めると期待はずれになると思う。2本目は松竹で『どつかれてアンダルシア(仮)』というスペイン映画。監督は『ビースト・獣の日』や『ペルディータ』のアレックス・デ・ラ・イグレシアだから、例によってかなりグロテスクなコメディになっている。3本目はFOXでナタリー・ポートマンが未婚の母を演じる『あなたのために』。この邦題がどうもよくわからないんだけど、映画はよくできている。これが単館(シャンテ)での公開とはもったいない。みゆき座あたりで上映しても、十分にお客さんを引っ張れるクオリティを持っていると思うんだけどなぁ……。
 帰りに青山ブックセンターで堀田善衛の「路上の人」を購入。カタリ派信仰とアルビジョア十字軍について書かれた小説だが、先日紀伊國屋のサイトで検索したら新潮文庫版が入手不可扱いになっていた。手に入れようとすれば書店店頭の在庫しかないので、気が付いたら買っておこうと思った次第。僕が手に入れた本は5年前に出たものだが、「終生の世界人・堀田善衛逝く」と、著者が亡くなったときの帯がそのままついていた。これが2年前のものだから、ずいぶんと長く書店(あるいは取次)に置いてあったのだなぁ。

11月25日(土)
 前日観た映画の感想をまとめ、仕事の原稿も入稿してしまう。

11月26日(日)
 午前中はCS。午後は夕方から横浜で妹の結婚お披露目会。戻ったのは夜の10時頃。

11月27日(月)
 朝一番でDDI用の原稿を入稿。今週は『三文役者』を取り上げた。午前中は志ん朝の落語を聴きながらメルマガ編集。部屋に溜まったビデオテープを全部処分したら、部屋が少しはスッキリした。あとは古いパソコンを粗大ゴミに出せば、部屋もだいぶ広くなりそうだ。メルマガ編集が終わった後、銀行と郵便局で家賃や保険の入金作業。いつも月末にやってるんだけど、月末は給料日後のサラリーマンやOLも銀行にいるし、振り込み作業の行列もやたら混むから嫌いだよ。
 午後はシネカノンで『さすらいの恋人 眩暈(めまい)』を観る。挫折して汚れてしまった青春の夢のあと。わかりやすい映画だ。2本目はヘラルドで『アート・オブ・ウォー』を観たが、これがまったくチンプンカンプンだった。何がやりたいのかさっぱりわからない。3本目はイマジカで『グリンチ』。子供が観るにはいい映画だと思う。大人が観て特別面白い映画ではないけれどね。作りにまったく手抜きがないのはさすが。
 昨日撮ったフィルムを現像に出すつもりでポケットに放り込んだつもりだったのに、『アート・オブ・ウォー』を観ているときふと気付いたらポケットに何も入っていない。どこかで落としたらしいが、皆目見当が付かない。未現像のフィルムを拾って勝手に現像する人もいないだろうが、拾ったフィルムをどこかに届ける酔狂な人がいるとも思えない。そもそもどこに落としたのかわからないから、探しようも問い合わせのしようもない。帰宅途中の路上や部屋の玄関の前などを見ながら帰ってきたが、薄暗くなってまったく何も見つからない。あきらめて部屋に入ったら、ポケットに入れたつもりのフィルムが部屋の机の上に置いてあった。
 午前中に聴いていた落語が「文七元結」だったというのは、ちょっとできすぎた話。

11月28日(火)
 渡邊昌美の「中世の奇蹟と幻想」(岩波新書)を読み始める。中世の文書の中に登場する、さまざまな奇蹟譚や聖者伝などが集められている。中世版の「本当にあった恐い話」「本当にあった不思議な話」の類だ。体系的に歴史を俯瞰する本ではないけれど、中世人の世界観がかいま見えるようで面白い。
 午前中は昨日観た映画の感想を書く。メルマガの発行予告をするが、めるまのサーバが停止中のようだ。午後は徳間ホールで『はなればなれに』を観た後、映画美学校で『東風』。なんとゴダールの2本立て。『東風』は半分ぐらい寝てしまった。ハリウッド映画が作り上げた映画の文法やドラマツルギーを徹底的に批判し解体した結果、『東風』は映像と音声による前衛散文詩のようなものになっている。『はなればなれに』から『東風』まで5年の間に、ここまで表現スタイルが変わってしまうんだから、当時ゴダールを追いかけていたインテリ映画マニアは、さぞや興奮したことだろう。でも今の観客は、それと同じ興奮を味わうことができない。どのみち、ゴダールはもう過去の人だもんね。ゴダールは映画表現に革新をもたらしたけれど、その追随者は現れなかった。
 3本目はシネカノンで『ツバル』というドイツ映画。モノクロ・サイレント映画を思わせる演出。なかなかユニークだけれど、これで1時間半は長いなぁ。

11月29日(水)
 午前中に前日観た映画の感想を書く。午後は試写を1本さぼって3時半のシネカノンで『ファットマン』。映画の後急いで食事して、6時から東宝で『楽園をください』。銀座で自転車回収して帰宅。

11月30日(木)
 午前中は映画の感想を書いたり、まぁいつもの日課。午後は少し早めに部屋を出て、ヘラルドで『アヴァロン』を観る。試写状のスケジュールでこの日が最終日ということもあるが、試写室は僕が到着した30分前でほぼ満席。僕も試写室の最後列から2段目という、いつもなら絶対に座らないような席を辛うじて確保した。これだけ注目を集めている映画のわりには、あまり面白くなくて拍子抜け。僕は映画の前半で少しウトウトしてしまうぐらいだった。2本目は気を取り直して、FOXでジム・キャリーの『ふたりの男とひとりの女』の試写。キャリーは『グリンチ』がいまいちだったので、今回は大いに期待させられた。その結果、期待を裏切らない面白さに大満足。物語自体はたいしたことないんだけど、キャリーの芸と細かなギャグの連発に大笑い。映画の後簡単に食事して、東京国際フォーラムの映像ホールで『クリスマスにプレゼントを選ぶこともなく』という日本映画。招待状をもらったから出かけたのだが、なぜ僕のところにこの招待状が来たのかさっぱりわからない。映画自体は面白かったけど……。
 帰宅したら仕事の依頼のメールが入っていたので、他のものとあわせて返信を書く。仕事は原則断らない方針。試写は案内さえあれば必ず観る方針。これを両立させるには、週末を仕事で潰すしかない。仕事が途絶えてどうしようかと思っていたけれど、何とか12月もまとまった仕事にありつけそう。



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